コンコルド搭乗記 2003年5月9日

   N.Y J.F.K → PARIS C.D.G  AIR FRANCE 001便

 コンコルド搭乗のため、9日早朝、ニューヨークJFK空港のターミナル1に向かう。
 AF001便の出発は8:00だが、チェックインは6:00より開始される。
 午前中のターミナル1からの出発はコンコルドしかなく、他の航空会社のチェックインカウンターは閉まっており、外れにあるAFのカウンターのみがコンコルドの旅客のチェックインを行っているため、非常に閑散とした印象を受ける。
 AFのチェックインカウンターからは直接ラウンジに入れるコンコルド専用のゲートも設置されているようだが、朝1番でチェックインしたためかそちらは稼働しておらず、通常のセキュリティチェックを抜けてゲートに向かう。

 セキュリティチェックは戦争の影響かかなり厳しく、靴を脱がされたり持っていたパソコンの爆発物反応の検査などが行われた。
 一応空港内には免税店が有るのだが朝早いためか、それともコンコルドに乗るような金持ちは免税品には興味ないと思われているのか営業はしていなかった。
 それに満席になっても100人程度しか乗れないのでは店を開けても商売にならないのかもしれない。

 ゲートを通過すると機体の待つ2番ゲートに向かうと、一般待合室の外にはこれから搭乗するコンコルドが翼を休めている。
 コンコルドをまじまじと見るのは英国のダックスフォードの博物館以来だが、前回博物館で見たときよりも小さく見える。
 コンコルドのクラスはファーストクラスに特急料金が追加されたプレミアムファーストクラスとなりラウンジが利用できるため、搭乗口脇のラウンジで軽く朝食を取るが、ラウンジからはコンコルドの姿が見えないので15分ほどで一般待合室に戻ることにする。

 機体後部に書かれている番号を読むと「F−BVFB」と書かれており、後ほど調べた限りでは量産7号機のようだ。
 この機体の初飛行は1976年みたいだから30年弱使われているのか・・・

 コンコルドの製造機数は、試作機2機、量産先行試験機が2機、量産機16機の計20機が製造されている。
 このうち試作機と量産先行試験機は全て博物館入りしており、量産機も3号機(AF)がパリ郊外で2000年7月に墜落、1号機(AF)は引退、2号機(BA)、11号機(AF)は除籍されてパーツ取り専用になっているとの話だ。
 またブリティッシュエアウェイの6号機と8号機は現在除籍されてはいないが運用から外されている。
 そのため5月現在で運行されているのはエールフランスで5機、ブリティシュエアウェイで5機の10機となる。 


 7時30分頃から搭乗が開始され、ボーディングブリッジを通り、高さの低いドアをくぐり抜けて指定された3Dの席に向かう。
 今回は正規料金で購入していたため、購入時に事前座席予約が行えたため、前方窓側を希望しており翼に掛からない席を無事確保していた。
 機内は中央の通路を挟んで両側に2列づつの配置で、天井が低いために荷物棚は目線の高さにある。
 革張りの座席のピッチは新幹線の普通車程度で、エコノミーの座席ほど窮屈ではないが簡単に足が組めるほど広いわけではない。
 窓の大きさは葉書をちょっと小さくした程度の大きさで、3重構造のため窓と言うより覗き穴といった趣だ。
 流石に製造されてから30年近い年月が流れているため、設備面では古さを感じさせる。

 JFKに着陸するAF002便
 8時前には搭乗が終了し、ドアクローズ、プッシュバックとなるが、2番スポットの周囲は狭いためか、いったんブッシュバックした後、広いところまでトーイングされてからエンジンスタートとなる。
 エンジン音については機内にいる分には若干音が大きいかなという程度で、普通の飛行機と変わりないようだ。
 ただ、外の職員は全員プロテクターを付けているので相当うるさいのだろう。

エンジンを順調に始動した後は、滑走路をめざしてタキシングしていくが、順番待ちのためなかなか離陸する事ができない。
 滑走路エンドでしばらく順番待ちしたのち、いよいよ離陸の順番かと思っていたらちょうどパリから到着したAF002便が着陸してきた。
 コンコルドの機内からコンコルドを見るのも不思議な気分だが、この便にはリンクさせて頂いてる「かねこさん」が搭乗しているはずだった。
 かねこさんは私が成田を発った日にパリに出発しており、互いに地球を東回りと西回りで廻って互いにコンコルドに乗ってすれ違うという奇妙な縁を感じさせる方である。

 AF002便の着陸後はついにこちらの離陸だ。
 4基のロールス・ロイス オリンポス593 Mark610エンジンが咆哮をあげる。
 アフターバーナーが炊かれ鋭い加速でどんどん増速し滑走路が後ろに流れて行くが、通常の飛行機に比べると滑走距離が異常に長く感じられることとと、かなり速度が上がっているのになかなかリフトオフしないのが印象的だ。
 滑走路を目一杯使用してリフトオフした後の上昇も心なしかゆっくりなように感じられるが、国際線のB747の様に何とか浮かびましたと言うような不安感は微塵もない。
 離陸に関してはコンコルドとその他の飛行機ではスポーツカーとバスほどの違いが感じ取れた。
 また有る程度加速してからの上昇はかなり早く、体感としてはB747の2倍くらいの上昇率のようだ。。

離陸上昇中の機内

亜音速による上昇中の風景
 離陸後は上昇しながら加速を続け、離陸から約15分程度で音速を突破しそうだ。
 壁面に取り付けられたマッハ計の値が1.00に近づいていく。
 音速突破の際にはM0.99でしばらく足踏みした後、音速を突破しさらなる加速を続けていく。
 機内の様子は音速を突破しても特に変化は無く、窓から衝撃波が見れるかもと期待したが特に変化は見られず、速度計の数値だけが黙々と上がっていく。

音速の手前

音速突破後

亜音速と超音速の概念図

巡航中

巡航中
 M1.00を過ぎてからの加速は特に劇的な変化は無く、M1.70前後でアフターバーナーをカットすると加速中にも関わらず、減速したかのようなGが感じられた。
 M1.70以上の速度域ではエンジンに効率的に空気が流入するため、アフターバーナーが無くても加速が可能なスーパークルーズ状態となる。

 ちなみにジェットエンジンの推力増強装置としてはアフターバーナーの名称が一般的だが、実はこの名称はエンジン会社の登録商標の様な物で、エンジンメーカーごとに名前が異なるのは余り知られていない。
 ゼネラル・エレクトリック社  アフターバーナー
 プラット&ホイットニー社   オーギュメンター  
 ロールス&ロイス社     リヒータ
 原理的にはどれも一緒で、エンジン排気に直接燃料を噴射し推力を増加させるのは変わらない。

 離陸から約40分でM2.0に到達し巡航状態となる。
 このときの対地速度は約2200km/h、秒速にする約610mくらい?
 地上における音速は秒速340mだからM2.0だと秒速680mとなるが、マッハ数は気圧と温度により変化するため、気圧の低い高空では地上に比べて遅い速度でもマッハ数は高くなる。 
 巡航を開始したのは高度15000m近辺からで、この後は巡航しながら緩やかに上昇を続け最終的には18000mに到達するスケジュールのはずだ。
 外の風景は通常の飛行機は明らかに異なり、上空の空の色が青ではなく、紺碧なのが印象的だ。
 水平線も何となく丸く見えるし、気分はちょっとした宇宙旅行だ。
 このときの外の環境は気圧は地表の1/10以下、気温は−56C゜ととても人類が生存可能な環境ではない。
 もし何らかの事故で与圧が抜けたら、数秒で低酸素症により意識を失い、気圧が低いために自分の体温で血液が沸騰するという恐ろしい環境だ。
 そう言えば離陸前にアテンダントによる緊急時の脱出に関するデモンストレーションも無かったような気がするが、なんかあったらそんなのは気休めにもならないと言うことを暗に示しているのかな?

前菜 イチゴとベリーの盛り合わせ、周囲はメロン

メイン 右 ベジタブルドリア 黒いのはトリフュ?かな
左 キャビアとクラッカー         

 M2.01で巡航を始めると、機内では食事の準備が始められる。
 テーブルには布製のテーブルクロスが敷かれアテンダントが配膳してくれるのはさすがファーストクラス。
 ただ、まだ朝の10時前なので、あんまり重い物は食べられない。
 飲み物もシャンパンなどが有ったようだが、こちらはノンアルコールで済ませることにしましょう。
 前菜とメインと続き、最後はデザートとなるが、以外と量が多くて食後のデザートはパスしてしまった。

巡航終盤で最高速度M2.02をマーク

高度18000mの風景

3重窓

 高速で巡航するため空気摩擦熱によりコンコルドの機体の温度は先端で130C゚、私が座っている辺りでも90C゚以上の高温となる。
 そのため、窓に手を当てると熱くてさわれないほどではないが、かなりの熱を持っている。
 左の写真の通り3重窓は非常に小さく、普通に外を見ていると右目と左目で見える風景が異なるため非常に目が疲れる。
 一応壁などについては断熱がしっかりしているのか特に温度が高くなっているような事はなかった。
 また機内の臭いには若干オゾンのにおいが混じっているのが成層圏を飛んでいるためだと実感できる。

 食事が終わり、機内が落ち着いて来たところでトイレに行ってみる。
 トイレの場所は丁度速度計の裏手で、付近はギャレーを兼ねているため、非常に窮屈だ。
 奥にはコクピットが有るのだが、9.11のテロ前までは、操縦席のドアも開けっ放しだっらしいが、流石にこのご時世ではきっちり閉じられていた。
 トイレの中は普通の飛行機に比べても明らかに狭いが、用を足すのには問題は無い。

 NYを発って約2時間40分ほどでアナウンスがあり、減速が始まる。
 エンジン音が小さくなると、とたんに減速Gが感じられ速度計の数値がどんどん減っていく。
 減速を始めて10分くらいで音速以下まで減速すると、その後はM0.97で降下を続け眼下にはノルマンディー地方の海岸線が見えてきた。

ノルマンディ地方の海岸線

CDGのターミナルAに到着

 その後は降下を続けながらCDGに現地時間の17時30分頃無事到着。
 乗ってしまえばあっという間の3時間45分の旅だったが、非常に貴重な体験ができたので一生の記念になるだろう。

 コンコルドを降機しながら何気なくアインシュタインの特殊一般相対性理論(追記2参照)を思い出した。
 確か光速に近づくと時間の流れが遅くなり、光速では時間の流れが止まるのではなかったかと・・・
今回のフライトで通常経験できない高速で移動をしていたわけだからひょっとすると一般の人と時間がずれているのかもしれないと言うことだった。
 一応計算してみると 光速が秒速30万km/sで有るのに対して、コンコルドで秒速610m/sの移動を2時間続けたら以下のような結果になった。 (概算ですが間違ってたら詳しい方ご教授ください。)
  0.610km/s / 300000km/s * 120分 * 60秒 = 0.015秒
 2時間のフライトで2/100秒ほど時間が遅く流れたことになるのか、そう考えるとわずかな時間であるけど非日常的な体験をしたのだと改めて思う次第であった。
(追記1参照)

 これでいつかは乗ろうと思っていたコンコルドにも搭乗できたのだが、夢が叶ってしまった今現在は次は何を目標にするかしばらく悩むことになりそうだ。
 もっとも経済的にしばらくは夢を追うのは難しそうだけど・・・


2006.5.12 
追記1
 
掲示板の方に相対性理論に関するご指摘が有りましたので、訂正させていただきます。

投稿者 田中様 以下投稿より

「コンコルドに乗って相対性理論効果について記載されておりますが、これはちょっと大きすぎると思います。
正確には、v^2/(c^2-v^2)になりますので、丁度ピコセカンド(ps)オーダくらいです。つまり、パソコンのクロック位遅くなった程度です。」

との事でしたので、0.015秒というのは無茶苦茶過大な計算結果で有ることが判明しました。
単位のピコは1兆分の1の単位とのことですので、人が認識できる時間とはあまりにもかけ離れております。
この程度の時間は通常の生活では0と言って差し支えないほど微少な時間であるため、時間が遅く流れたと言う表現は適当ではないと言うことになります。

本ページをご覧になっていた皆様には間違った情報を掲載した事を深くお詫びいたします。
ちなみにこの件に関しては謝罪はいたしますが、賠償はいたしませんのであしからず。


2008.3.2 追記2

掲示板にHN うめぼし様から指摘があり修正です。

>コンコルドを降機しながら何気なくアインシュタインの一般相対性理論を思い出した。
>確か光速に近づくと時間の流れが遅くなり、光速では時間の流れが止まるのではなかったかと・・・
とありますが、この場合は特殊相対性理論です。

一般相対性理論と特殊相対性理路を取り違えていました。