スリランカの鉄道
インド洋に浮かぶセイロン島の国、スリランカは紅茶の産地として知られていますが、その鉄道については日本では余り紹介されていません。 今回、長期出張で滞在した際に見たり乗ったりした範囲内で、スリランカの鉄道について個人的に整理してみました。 一部路線は内戦の影響で運行が停止していますが、復旧工事が進められている模様です。 (滞在は2013年の9月から12月に掛けてとなります。一部推測による部分もあるため、全ての情報が正確であると保証出来ません。また一部内容はWIKIPEDIA英語版の内容を引用しています。) 目 次 1.路線網 2.路線概要 3.車 両 4.関連サイト |
||
1.路 線 網 (1)Main Line ━━━━━━ Colombo(Fort)~Peradeniya Junction ~Badulla (2)Matale Line ━━━━━━ Peradeniya Junction~Kandy~Matale (3)Coastal Line ━━━━━━ Colombo(Fort)~Galle ~Matara (4)Puttalam Line ━━━━━━ Ragama(Colombo近郊)~Chilaw~Puttalam (5)Kelani Valley Line ━━━━━━ Colombo(Maradana)~ Avissawella (6)Northern Line ━━━━━━ Polgahawela~Anuradhapura~Kilinochchi Kilinochchi以北運休中。 (7)Batticaloa Line ━━━━━━ Maho Junction ~Gal-Oya Junction~Batticaloa (8)Trincomalee Line ━━━━━━ Gal-Oya Junction~Trincomalee |
路線図 |
|
2.路線概要 |
||
(1)Main Line Colombo(Fort)~Peradeniya Junction ~Badulla スリランカ最大の都市コロンボから、中央山岳地帯のBadullaまでの路線。 沿線はコロンボ近郊を除き、山岳地帯となっています。 Colombo~Peradeniya Junction間は有名な観光地Kandyに向かう列車が運行されるため、列車の本数は多めですが、Peradeniya Junction~Badulla間の列車の運行本数は非常に少なくなっています。 Colombo~Badullaは約300kmの路線長ですが、山岳地帯は急曲線、急勾配のため列車の速度は遅く、所要時間は直通列車で10時間前後かかります。 もともとイギリス統治時代に茶葉の輸送用に建設された経緯があり、沿線は茶畑が広がる風景の中、山の尾根を進んでいくため車窓には雄大な風景が広がっています。 |
||
沿線主要駅 ◇Colombo Fort スリランカ国鉄の起点となる駅で、各方面の列車が発着します。 11番線まで存在し、その内1,2,10,11番線が頭端式ホームとなっています。 駅舎は北側がメインとなっており、切符売り場は方面別、等級クラス別となっており、切符の購入時には注意が必要です。 座席指定を行う場合は、駅舎東側の予約窓口に行く必要が有りますが、時間帯によってはあまりの混雑のため、予約窓口にたどり着くことが困難となることがあります。 ホームへの入口にはラッチがあり駅員がチェックするため、切符がないと構内に入ることは出来ません。 |
||
◇Peradeniya Junction Main Line,Matale Lineの分岐駅で、駅自体はデルタ線の中に配置されています。 有名な観光地のKandy駅までは約6kmです。 駅構内には小規模な売店がある程度で、周囲には目立った施設は有りません。 駅東側には石油精製施設が隣接しており、テロ対策のためそちら側の写真撮影は厳禁です。 石油施設側には、ライフルを持った警備員が巡回しており、のんびりとした構内とは対照的です。 |
||
◇Badulla Main Lineの終点駅。 山間の好ましいたたずまいの終着駅で、駅前では日曜日にマーケットが開催されますが、食料品が主で観光客が購入するようなものはありません。 構内に売店等は有りませんが、駅前を少し進むと商店が数軒有ります。 |
||
(2)Matale Line Peradeniya Junction~Kandy~Matale Main LineのPeradeniya Junctionより分岐して、観光地のKandyを経由して、MaAtaleに至る路線です。 Peradeniya Junction~Kandy間は列車本数が多いのですが、Kandy~Matale間は区間列車が一日数本走る程度となっています。 |
||
沿線主要駅 ◇Kandy 有名な観光地Kandyの玄関口で、コロンボからの列車はここが終点となります。 ホームは基本的に頭端式の行き止まりとなっていますが、1番線は路線の終点Mataleへの区間列車が発着するため、通過式となっています。 |
||
◇Matale Main Lineの終点でホームは1面となっており、構内には別途数本の側線が有ります。 駅舎は道路より一段引っ込んだ箇所に有り、案内の看板を見つけないと一見すると駅には見えないたたずまいをしています。 |
||
(3)Coastal Line Colombo(Fort)~Galle ~Matara Colomboより西海岸沿いに進み、観光地のGalleを経由して島の南端Mataraを結ぶ路線です。 海沿いを走るため眺めのよい路線です。 Mataraから先は路線を延伸すべく工事が進められている模様です。 |
||
駅自体はFort駅の東2kmにあり、Main Line上の駅となりますが、Coastal Lineの列車は基本的にこの駅が始発となります。 Main Lineの優等列車(Cilombo~Kandy,Badulla)はこの駅には停車しませんが、Coastal Lineの列車はこの駅を発車すると、隣のFort駅に停車してから、海岸沿いに南に向かいます。 またKV Lineは本駅より分岐していきます。 |
||
◇Galle 南部の観光地Galleの玄関口で頭端式ホーム配置となっているため、Colombo~Mataraを直通する列車はスイッチバックする必要があります。 |
||
◇Matara Matara Lineの終点。 |
||
(4)Puttalam Line Ragama(Colombo近郊)~Chilaw~Puttalam Colombo近郊のRagamaでMain lineより分岐し、海沿いに北側に向かう路線です。 途中まで複線化されていますが、単線区間では行き違い設備のある駅でも、ホームが片側に1面しか無く、行き違いの際には先に到着した列車がホームで客扱い後、一端後退してから側線に入り、対抗列車がホーム側の線に入線して離合するという手間のかかる運行形態を取っています。 沿線には、コロンボの空の玄関口バラケイナ国際空港が有り、滑走路の端を線路が通過していますが、空港連絡を意識した路線とはなっておらず、空港利用者が鉄道を利用することは困難な状況です。 |
||
沿線主要駅 ◇Chilaw Colomboからの区間列車が設定されている駅で、この駅より終点側は列車本数がグッと少なくなります。 |
||
(5)Kelani Valley Line (KV Line) Colombo(Maradana)~ Avissawella Colombの東50kmあるAvissawellaとColomboを結ぶ路線で、建設時は軽便鉄道として開業しましたが、その後スリランカ国鉄が採用している広軌に改軌した経緯があります。 沿線はコロンボ近郊は違法建築が線路際まで立ち並び、列車と接触しそうな状況で、窓から身を乗り出すのは非常に危険な状況となっています。 また、途中ゴルフ場の中を横断する箇所があり、ボールを打ち込まれないかちょっと心配な箇所も有ります。 郊外に出るとゴム農園などがあり、ちょっとした熱帯雨林や田園地帯を走るなど変化に富んだ路線ですが、急曲線の連続と駅間が意外に短いため、路線長の割に所要時間が非常にかかります。 列車の運行はColomboへの通勤を意識したダイヤとなっており、朝はColomboに向かう列車ばかりで夕方はその逆と、Colombo側から乗車しようとする利用しずらい路線となっています。 |
||
沿線主要駅 ◇Avissawella KV Lineの終点で、町の中心から離れているため駅周囲には、幹線道路以外これといったものがありません。 1日に発着する列車の本数は4本程度と非常に少なくなっています。 |
||
(6)Northern Line Polgahawela~Anuradhapura~Kilinochchi Kilinochchi以北運休中。 Main LineのPolgahawelaより分岐し、島の北側に向かう路線です。 路線の北側は内戦により破壊されたため現在復旧工事中です。 |
||
沿線主要駅 ◇Anuradhapura 遺跡観光の玄関口となるため、乗降客の多い駅です。 特に満月のホヤデーは仏教のお祭りとなるため、多数の乗降客が利用します。 町の中心から離れており、駅前には何もありませんが、ラッチ内には売店があります。 タクシーの客引きが多く、獲物を物色するため、ラッチ内にまで入り込んできています。 構内で客に声を掛けるのは御法度のようで、駅舎の外に出るまで張り付いて来て、駅の外に出た瞬間に声を掛けてきますが、正直非常にウザイです。 |
||
(7)Batticaloa Line Maho Junction ~Gal-Oya Junction~Batticaloa 未乗車のため状況不明。 (8)Trincomalee Line Gal-Oya Junction~Trincomalee 未乗車のため状況不明。 |
||
3.車 両 |
||
(1)機関車 (1)-1.本線用 |
||
① Class M4 メーカー: Montreal Locomotive Works , カナダ 軸 配 置: C-C 出 力: 1750hp Alco Bombardier V12 12-251C3 (4 stroke) 駆動方式: ディーゼル-電気式 ブレーキ: 真空ブレーキ,空気ブレーキ 概 要 : 1975年より使用されている現在最古参の平坦区間用の機関車。 旅客列車を牽引しており、山岳路線となるMian Lineの Polgahawela より東側区間には入線しません。 スリランカの在来客車はブレーキ方式が真空式のため、オリジナルのブレーキは真空式でしたが、後から空気式ブレーキを追加しています。 運用区間はMain lineのPolgahawela以東とKV Lineを除く全線。 |
||
② Class M5 メーカー: 日立、日本 軸 配 置: B-B 出 力: 登場時 1640hp MTU-Ikegai V12 12V652TD11 駆動方式: ディーゼル-電気式 ブレーキ: 真空ブレーキ(一部空気ブレーキ) 概 要 : 1979年より使用されているMian Lineの山岳区間用機関車。 急曲線に対応させるため、軸配置はB-Bで全長もコンパクトになっています。 基本的にMine LineとMatale Lineの旅客列車や混合列車を牽引しています。 現在は全機エンジンを換装した模様で、エンジン種別ごとにM5a,M5b,M5cの3種類に分類されています。 M5a – 1150hp MTU V12 396TC13 (768号機1両のみ、S8型予備エンジン搭載) M5b – 1150hp PAXMAN Velanta V12 RP200L M5c – CATAPILLER 3516 DITA 右写真はM5c型782号機 |
||
③ Class M6 メーカー: Thyssen-Henschel , 西ドイツ 軸 配 置: A1A-A1A 出 力: 1650hp GENERAL MOTORS V12 12-645E (2 stroke) 駆動方式: ディーゼル-電気式 ブレーキ: 真空ブレーキ、排気ブレーキ 概 要 : 1979年より使用されているMian Lineの山岳区間用機関車。 一見すると6軸配置のC-Cタイプに見えますが、各台車の中央1軸は動力を持たない軸重軽減用の従車輪で、あまり例を見ないA1A-A1Aの軸配置となっています。 Mian Lineの山岳区間での使い勝手が良いようで、Colombo~Kandy間のInterCity ExpressやBadullaへの直通する優等列車を中心に使用されています。 またMain LineのBadulla側の区間はこの機関車の独壇場となっている模様です。 |
||
④ Class M7 メーカー: Brush Traction, イギリス 軸 配 置: B-B 出 力: 1000hp GENERAL MOTORS V8 8-645E (2 stroke) 駆動方式: ディーゼル-電気式 ブレーキ: 真空ブレーキ 概 要 : スリランカ国鉄では唯一運用されているイギリス製機関車で、スリランカ国鉄でもっとも小さく、出力も最小の電気式ディーゼル機関車です。 そのため急勾配区間では運用せず、Matale LineのKandy~Matale間の区間列車や、Coastal Lineの短編成の列車の牽引に使用されています。 使用開始は1981年。 |
||
⑤ Class M8 メーカー: Diesel Locomotive Works, インド 軸 配 置: C-C 出 力: 2600hp ALCO/DLW – 251B V16 (4 stroke) 駆動方式: ディーゼル-電気式 ブレーキ: 真空ブレーキ、空気ブレーキ 概 要: 現在スリランカ国鉄で最大の出力を持つ機関車で、1995年より使用されいてます。 急曲線の通過が困難なため、Main Lineの山岳区間には入線せず平坦区間で旅客列車と貨物列車の牽引に使用されています。 保守の煩雑さと錆の進行が問題となっている模様です。 |
||
⑥ Class M9 メーカー: Alstom フランス 軸 配 置: C-C 出 力: 1800hp ALSTOM RUSHTON DIESEL 12 RK 215T (4 stroke) 駆動方式: ディーゼル-電気式 ブレーキ: 真空ブレーキ、空気ブレーキ 概 要: 2000年に導入されたフランス製の機関車で、その他の機関車と明確にデザインが異なります。 投入時より機械・電気系のトラブルが深刻で、10両の投入に対して、2010年の段階で稼働していたのは3両だけでした。 現在も改修を続けていますが、2013年の段階で、稼働しているのは6両の模様。 個人な印象ではフランスが輸出した鉄道車輌は深刻なトラブルに見舞われることが多いように感じます。 |
||
⑦ Class M10 メーカー: Diesel Locomotive Works, インド 軸 配 置: C-C 出 力: 2,300 hp ALCO 251 B-16 Cyl 4 Stroke diesel 駆動方式: ディーゼル-電気式 ブレーキ: 真空ブレーキ、空気ブレーキ 概 要: 2012年より導入されている最新型の機関車で、出力はM8に及びませんが、車体長はスリランカ国鉄で一番長い機関車となります。 運用区間は平坦線区間となっています。 |
||
(2)気動車 |
||
① Class S8系 メーカー: 現代, 韓国 出 力: 1430hp MTU – V12 396 TC 13 駆動方式: 液体式 車 体 長: 20m級 概 要: 1991年より導入された動力集中式の気動車で、スリランカの気動車では現在唯一稼働している液体変速器を採用した形式となります。 右写真はオリジナル塗装の車両で初期のTGV塗装に酷似しています。 現在は広告をまとった編成も多数登場しており、オリジナル塗装は少数派となりつつあるようです。 運用区間はもっぱらコロンボ近郊区間のようで、車内は通勤輸送に適したプラスチック製のロングシートとなっています。 |
||
② Class S9系 メーカー: 南車集団,中国 出 力: 1400hp MTU – V12 396 TC 14 駆動方式: ディーゼル-電気式 車 体 長: 20m級 概 要: 1999年より導入された動力集中式の気動車で、コロンボ近郊の平坦区間で通勤用として使用されていますが、KV Lineには入線しません。 1編成は動力車を含めた6両で構成されており、2編成を連結した12両で運用されることもありますが、その際には必ず両端が動力車となるように連結する模様です。 |
||
③ Class S10系 メーカー: 南車集団,中国 出 力: 2000hp MTU – V12 4000 駆動方式: ディーゼル-電気式 車 体 長: 20m級 概 要: 2008年より導入された動力集中式の気動車で、コロンボ近郊の平坦区間で通勤用として使用されていますが、KV Lineには入線しません。 車内はプラスチック製イスのロングシートとなっています。 |
||
④ Class S11系 メーカー: ICF,インド 出 力: 1360hp KTA 50L V16 (4 stroke) 駆動方式: ディーゼル-電気式 車 体 長: 21m級 概 要: 2011年より導入されている急行用車両。 長い車体を持つため、平坦線区間で運用され、主にCoastal LineとNorthern Lineで運用されています。 車内は2等と3等の2クラス制となっており、2等は2+2の固定式クロスシート、3等は2+3のボックスシートとなっています。 2等車は座席毎に扇風機が設置され、多数のつり革とともに、車内の天井は非常物々しい雰囲気となっています。 基本編成は6両ですが、2編成を連結した12両で運用されることが一般的なようです。 |
||
⑤ Class S12系 メーカー: 南車集団,中国 出 力: 2012hp MTU 12V4000R41 V12 駆動方式: ディーゼル-電気式 車 体 長: 15m級 概 要: 2012年より導入されている山岳区間用の気動車で、急曲線に対応させるため、短い車体長を採用しています。 外観はS10とほぼ同一の形状となっていますが、短い車体長のため、S10と異なり、機関車には客室が設置されていません。 運用としてはMain LineのColombo~Kandy、Badulla間の列車に投入されています。 車内は1,2,3等の3クラス制で、ビュッフェコーナーも設置されていますが、乗車した列車では営業は行われていませんでした。 また、全車1等とした編成とKV Line用の編成も存在するようです。 |
||
⑥ レールバス 正体不明のレールバス。 2両編成で、運用区間は不明。 遭遇箇所はCoastal LineのColombo近郊とNorthern LineのAnuradhapura駅です。 遭遇時には、2度とも乗客の姿はなく、回送の様でした。 |
||
(3)客車 |
||
①在来型客種 長距離列車に使用される在来型の客車です。 展望室付きの1等車から、3等車まで、幅広く使われていますが、DMUの増備により今後数を減らしていくのではないかと考えられます。 車体長が短いため山岳区間の列車を中心に使用されていますが、平坦線区間でも長距離列車を中心に使用されています。 夜行列車用の車両には一部インド製の特徴を持つ車両も連結されています。 また数は少ないですが、寝台車も存在し、2人用の1等個室寝台となっています。 一部の長距離列車には1車両を借りあげて、特別なサービスを提供する会社があり、EXPO RailとRajadhani Express の2社が営業しています。 現地で調査中に同行していた人からの指摘で、ブレーキ方式が真空式であることが判明しました。 真空ブレーキは車体下部に大型のブレーキシリンダーが配置されているため、判別可能です。 ブレーキ圧が容易に上げられる圧縮空気を使用する空気ブレーキと異なり、1気圧以上の圧力差が生じさせられない真空ブレーキはシリンダーを大型にしないと必要なブレーキ力を得ることが困難です。 |
1等展望車 |
|
EXPO Rail車両 |
3等車 |
|
インド製?夜行列車用3等座席車 |
真空ブレーキ用大型シリンダー |
|
②旧型客車 山岳区間の混合列車に使用されている旧型客車。 第2次大戦前の木造車両の鋼体化改造車と推測されます。 |
||
③新型客車 車体のディティールより中国製と推測される新型客車。 車体長が長いため、平坦線区間で使用されている模様。 |
||
4.関連サイト ① スリランカ国鉄 (英語) ② スリランカ政府時刻表検索サイト (英語) ③ Train travel in Sri Lanka . . . (英語) ④ EXPO Rail (英語) 座席指定特別車両運行会社 ⑤ Rajadhani Express (英語) 座席指定特別車両運行会社 ⑥ Sri Lanka Rail Info Page (英語)車両の解説など |
||