2009年 7月6日 4日目  Narvik移動日

ノルドピーレンの朝

 本日は昨日の夕方から夜行列車(ノルドピーレン)でヨーロッパ最北端の駅Narvikに向けて移動中だが、車掌さんから昨夜衝撃の事実を知らされてからその対応をどうするかで頭を痛めていた。
 もっともこの区間の詳細な時刻表を入手していなかったのでここで考えてもちゃんとした対策は立てられそうにないため運転打ち切りとなるKirunaで対応を考えよう。

 列車の方は北極圏に入っているようで外は早朝にも関わらず相変わらず明るい。
 車窓の風景は湖と林が延々と続くが何となく林の中の白樺の比率が高くなっているような気がする。
 6時過ぎに編成の分割併合をおこなうBoden駅に到着。
 長時間停車することから久しぶりの一服のためホームに降り立つ。
 過去にこの列車に乗車した人の旅行記を拝見するとここで車両の入れ替えをするのでタバコを吸いに車外に出ていたら列車が入れ替えのため動いて焦ったとの記述があった。
 その通り列車の入れ替えのために車両が出ていくが事情が分かっているし、こちらの列車の車掌さんも皆喫煙しているのでのんびりと列車が戻ってくるのを待つことにしよう。

 Luleaから来た編成とLuleaへ行く車両の組み替えも終わり、列車の方は当面の終着駅Kirunaを目指して進んでいく。
 適当な時間に朝食を仕入れるため食堂車の売店に向かうが機関車の直後の車両から編成の中間程度まで行くのは結構大変だ。
 途中の車両は6人寝台のクシェットや座席車だが夜行列車独特のくたびれた空気が車内には広がっていた。
 食堂車に何とか到着し買い物をしようとしたら部屋に財布を忘れてきたことに気が付いた。
 結局なにも買えないが再度ここまで来るのも面倒なのでKirunaまで我慢しよう。

 9:40頃無事Kirunaに到着、取りあえずここで列車は打ち切りのようだ。
 ただ車内放送だと後ろの座席車はNarvikに行くようなことを言っている。
 荷物を担いで後ろの座席車に行ってみるとドアのところにはNarvikの行き先案内が表示されている。
 昨夜会った日本人女性二人組も取りあえず列車で何とか行けそうだと安堵している。
 しかし昨日車掌が行っていたバス代行は聞き間違えだったのかな?でも間違いなくバスと言っていたけど・・・
 一応昨夜の赤鬼車掌と別の若い女性車掌に確認すると、ちゃんとNarvikに行くとのことなので大丈夫のようだ。
 
Kiruna駅
 
Kiruna駅
 
Kiruna駅

Kiruna駅
 
 運転打ち切り

 この駅での停車時間は寝台車を切り離す関係で1時間半と長時間停車となる。
 荷物を座席にチェーンで括り付けて駅周辺の散策に出るが、この町は鉄鉱石の産出で有名であり駅の裏山にはボタ山が広がっている。
 この鉱山で産出される鉄鉱石を不凍港のNarvikまで運ぶためこの先の区間には世界最強の電気機関車が運用されており、今回はそれをカメラに納めるのが目的でもある。

 ホームをうろうろしていたら丁度鉱山より列車が出発してきた。
 牽引しているのは最近増備が進むIOREと言う新鋭機だ。
 この機関車が真の世界最強機関車であることは間違いないが、本当に撮りたいのはこいつの増備により引退が噂さされている旧型のDm3型だ。
 とは言え新型機の方も写真を撮っておくが留置している車両が邪魔で思うようなアングルでとれないのが悩ましいところだ。
 
 そのうちアナウンスがあり、なにやらバスに変更になるようなことを言いだした。
 あわてて荷物を置いてある車両に戻るとドアの行き先表示はLuleaに変わっている。
 駅の出発案内のディスプレイで確認してもバスに確定したようだ。
 どうやら昨日から情報が錯綜していたがやはりこの区間はバス代行になるのか。
 移動を開始する乗客で構内はちょっと混乱気味だが構内に置いてある時刻表をじっくり紐解くと、4時間後に次の列車があることが判明。
 案内所で次の列車はバスになるのか確認したところ一応列車で運行するとのこと。
 でも係りの人は次のバスに乗れというが、列車で無いとダメなことを説明したら半端呆れつつ納得はしてくれたようだ。
 バスの出発まで多少時間があるので取りあえず荷物を持って待合室に行くもののずいぶんと寒くなってきた。
 慌てて冬服を引っ張り出して着込むことにする。
 先ほどの日本人女性二人連れと再度一緒になったのでいろいろと世間話をするが、彼女らは予定どうり代行バスでNarvikに向かうとのことだった。
 
IORE型機関車
 
代行バス
 バスの方は駅前からの出発となり3台のバスが用意され、乗客が乗り込むと11:15に出発していった。
 駅に残ったのは私のほかは台湾人女性の5人組と数人の現地人の様な人だけになり、いきなり駅が閑散としてしまう。
 旅行中移動経路を記録しているGPSのメモリーがそろそろ一杯になってきたので、待合室のテーブルにパソコンを広げてデータの吸い出しをしていたら別に対抗意識ではないだろうが台湾の人たちもみんなバソコンを広げてなにやら作業をし出したようだ。
 しかし傍目からはかなり異様な光景ではないだろうか、駅の待合室で東洋人計6人がパソコンを広げているのは私から見てもちょっとどうよ?と思うところではある。
 こちらは作業が終わればすぐに片付けさせてもらうが彼女たちはなにやら真剣に作業をしているようだ。
 後で彼女たちのバソコンはなにを使っているのかチラ見したところ、ほぼ全員がASUSUのネットブックEeePCのようだ。
 しかし勝手に駅のコンセントを使ってパソコンを充電するのはあまり感心しないな・・・・
 天候の方は小雨が降っているので取りあえず昼食にするため駅に併設されている売店でハンバーガーを購入する事にしよう。
 しかしずいぶんと寒くなった思っていたら売店横に温度計があり気温は6゜Cとなっていた。
 
   
 
中央駅構内のウサギ
 食事が終わる頃に雨も止んだようなので再度ホームに向かい列車が来ないか待っていると駅構内をちょろちょろ動く動物がいる。
 最初は犬かと思ったがカメラでのぞいてみると野性のウサギであった。
 一応仮にも中央駅の名前を冠する当駅だがまさか野生のウサギが出没するとは思わなかった。

 貨物列車の方は相変わらずやってこないが今度は1眼レフカメラを持った老人がやって来た。
 鉄系人間の嗅覚というか風貌より同好の士と判断し、情報収集を計るべく色々と聞いてみた結果、オランダからやって来た観光客で列車のダイヤについては分からないとのことだったが、今週は鉄鉱石を積み出す船が、Narvikに入港してないので列車の運行本数が少ないのではないかということだった。
 後は線路を西に20分くらい歩くと機関区があることを教えてもらい、早速そっちに向かうべき駅前の道を線路沿いに20分ほど歩くが思っていた以上に距離があるようで全く見えてこないことから途中であきらめて引き返すことにした。
 一応鉄鉱石列車の出発線らしきあたりが途中にあるので機関車はいないか探してみたが出発準備を整えている様な様子はなかった。

 駅に戻るとまた雨がパラついてきたので待合室で過ごすが適当なところでLulea行きが到着するはずなので駅の端部で待っているが、一行に列車が来る気配はない。
そのうちまた雨足が強まったので屋根のあるところに避難するが、そばかすの目立つ現地の姉ちゃんがなにやら話しかけてくる。
 おそらく列車がいつ来るかと言うことなのだろうがこちらも情報があるわけではないので全く話がかみ合わない。
 しばらくお互いによく訳の分からない話を続けたがそのうちあきらめてほかの乗客になにやら聞いていたが、こちらでもどうも同じような感じてあった。

 結局後から到着するはずのNarvik行きが駅にやって来たので何とかNarvikまで列車で移動できそうだ。
 到着した列車も5割程度の乗車率で無事窓側席も確保できて一安心。
 しかし定刻になっても動き出す気配はない。
 10分、15分と時間は過ぎていくが取りあえず車内に乗客もいるし今のところは待つしかないだろう。
 30分ほどすぎて車内放送が有ったが特に乗客に動きは見られない。
 ただし内容については理解できなかったためホームにいる車掌を捕まえて状況を確認する。
 その結果判明したことは架線トラブルが発生しいつ出発するかはっきりしないとのことだった。
 またここに来てバス代行にならないよう祈るしかない。

 結局1時間遅れでKirunaを出発する事とな。
 ノルドピーレンからの待ち時間を考えると5時間近く遅れての出発だが、何とか最北端の駅まで鉄道で行けそうなので、安心した。
 駅の出発時には鉱山の出発線にDm3を先頭にした鉄鉱石列車が入線しているのが見えた。
 この列車の後から追いかけてくるかもしれないからNarvikについてたら一応撮影のことも考えておくことにしよう。
 駅からしばらく走ると、先ほど歩いてこようと思った機関区を通り過ぎ、そこには目当てのDm3がたむろしていたが一瞬の出来事結局ろくに写真に納められなかった。

車内では先ほどの台湾人の一行が鉄道パスを使用する際には使用開始前に駅の窓口でヴァリデートして使用開始の手続きをしなければ行けないのを知らなかったらしく、なにやら手続きのことで車掌さんと揉めているようだ。

 その後列車はダラダラとした上り坂を快調に進み、途中大きな湖に沿って快調に飛ばしていく。
 トレッキングで有名なAbiskoでは結構乗客が降りたが入れ替わりで同じ車両に小さい男の子を連れた日本人夫婦が乗ってきた。
 こんなところで日本人が乗ってくるのは珍しいなと思っていたがこの時は特に気にもとめなかった。
 
 
鉱山出発線
 
Narvik行き列車
 
スウェーデン側風景
 
スウェーデン側風景

  最終区間 

 列車が分水嶺に近づくとトンネルが多くなり山岳路線らしい雰囲気になってきた。
 ノルウェーとの国境駅で車掌さんが交代となるが交代要員が到着していないらしくしばらく足止めだ。
 そのうち1台の車が結構な速度で近づいてきたと思ったら交代要員だったらしく手短に打ち合わせをして業務を引き継いだようだ。
 国境のトンネルでは壁にスウェーデンの国旗とノルウエーの国旗の色がラインとして表示されており、色が変わったことにより国境を越えたことが分かるようになっていた。
 国境を越えると風景は一変しそれまでの高原という様相からフィヨルドの断崖絶壁に沿って結構な下り勾配を列車は下っていく。
 
 こちらは終着駅が近づいてくることとフィヨルドの風景にテンションが上がってくるが、先ほどの日本人の男の子が飽きてしまったのかなだめるためにどうやらビデオを見せてあげているようでとてつもなく場違いな音楽が流れてきた。

 「♪そうだ おそれないで ♪みんなのために〜  ♪愛と 勇気だけが ともだちさ〜」
 

 !!・・・・なぜ?!、なぜ??、この世界最北端の路線でアンパンマンの主題歌を聴かされねばならんのですか??
 
 いや別に作者のやなせたかしさんに恨みはないがなぜここでアンパンマンが?
 色々と予定が狂い乗り換えのドタバタで何か今回の旅行は呪われているのでは?と被害妄想気味になっているところにこの仕打ち。
 これまでの混乱のせいか一気に脱力してしまう。
 とりあえずこの痛い状況から脱出するには・・・・・

       たたかう   じゅもん   どうぐ    にげる

 持ってきていたが意外と使わなかった持参のiPodに頼るほかはなさそうだ。
 iPodを装着し北欧ということでグリーグのクラッシック音楽を聴いて気を紛らわせるのであった。

 列車はその後も快調にフィヨルドを下り、19時過ぎに終点Narvikに到着した。
 当初の予定であれば14時過ぎの到着だったので結局5時間遅れたことになる。
 Stockholmを出発して丸1日掛りの移動となった上、いろいろとトラブルを乗り越えて到着した長年の目的地であっただけに特に感慨深い。
 しばらく駅構内の写真を取ったり北端の碑を探したりしてした後、到着証明書を買おうと窓口に行くが本日は終了らしく閉まっていた。
 証明書が買えなくて残念ではあるが列車で到着できたことだけでも満足である。

注) 正真正銘の世界最北端の駅はロシアのムルマンスクですが、原子力潜水艦の基地がある軍港都市のため一般人立入禁止の上、情報が全くないことから一般的にはNarvikが最北端とされています。

ノルウェー側フィヨルド
 
ノルウェー側フィヨルド
 
Narvik駅
 最北端の碑

Narvik駅
Narvik市内散策

 駅のあたりをしばらく観察した後、ホテルにチェックインするため市街中心部に向かって歩いていくが、それほど大きな町ではない上に市内中心部と駅の中間にホテルがあるのでそれほど時間は掛からない。
 途中ATMが有ったのでノルウェークローネをキャッシングしてから大通りを進んでいくと本日の宿となるQuality Hotel Grand Royal Narvikに到着だ。
 この町で唯一のちゃんとしたホテルであり、先ほどの日本人家族も宿泊しているようだ。
 荷物を部屋に置いたら夏の観光シーズンということなので遅くまで開館している戦争博物館に向かうことにしよう。
 戦争博物館は町の中心部で市庁舎の向かい側にあり、ホテルからは歩いて5分弱。
 シーズン中は21時まで開館していることからここぐらいは見学させてもらいましょう。
 展示品については正直大したこと無いような印象で、パネルの展示がメインのようだ。
 装備品関係は拳銃、ライフル等の歩兵用装備くらいで私の好きな戦車関係は皆無で博物館前広場においてあるホッチキス戦車くらいしかないようだ。
 内部の見学はサラッと見たことからそれほど掛からず15分程度で早々に博物館を退散する。
 その後は明日の朝よりBodoに向かうための長距離バスターミナルの位置を確認すべく、ショッピングセンターに隣接したターミナルに向かう。
 バスの時刻についても問題ないようで朝7時の出発に変更はない。
 ショッピングセンターの裏は鉄鉱石列車の到着線となっており列車がいないか確認するが、貨車は留置されているものの機関車については存在が確認できない。
 Kirunaの出発時に後続列車が準備していたようだからそろそろ駅の方にやってくるかもしれない。
 まだちゃんとDm3型機関車の写真を撮っていないためしばらく駅で,粘って見るか。
 途中にある市庁舎前の広場にはヨーロッパの主要都市までの距離表が建てられており北極までの距離2400kmとなりだいぶ北に来たという実感が湧いてくる。
 
 ホテルの前を素通りして再度駅に行くと丁度駅員さんが外で煙草を吸っていた。
 機関車の写真を取りたいんだけど次の列車は何時かと聞いたところ、IRON TRAINなら2分後に通過すると教えてくれた。
 お礼を言ってホームの外れで待っていると山陰から機関車のライトが近づいてくるのが分かる。
 先頭は目当てのDm3で後ろには鉄鉱石を満載した貨車が延々と続いておりもの凄い長さだ。
  駅構内に進入してきた列車を撮影するのは1回限りのチャンスということでとにかくシャッターを切りまくる。
 目の前を通過し機関車が視界から消えるまでシャツターを切り続けたが、1回の撮影でほぼ100枚を撮っていた。
 しかしロッド式の重量貨物機がそばを通過するとすごい迫力だ。
 貨車もとにかく重そうな感じだしこれまで見た貨物列車とは明らかにスケールが違うことを痛感した。
 列車の通過後は先ほどの到着線のあたりで何やら動きがあるかもしれないと思い、先ほど来た道を戻ってショッピングセンター脇の陸橋付近から構内の動きがないか観察する。
 距離が有るため正確には分からないがどうも機回しをおこなう準備をしているようだ。
 うまくいけばもう一回機関車だけでも目の前を通過するかもしれない。
 
 しばらく待っていると機関車が貨車から離れるのが確認できた。
 奥ではIORE型が積み卸し場に貨車を押し込んでいるのも見えてきた。
 おそらくDm3を使って押し込むだろうからこちらに来ないかとヤキモキしていたらゆっくりと進んでくるような動きが出てきた。
 とりあえず車両全体が入れられるアングルを急いで探すが周囲に障害物が多く、何とか機関車だけでもとれる場所に移動して前を通過するのを待つ。
 幸いなことにゆっくりと進んできたので余裕を持って写真を撮ることができ、何とか全体を納めることができた。

 その後貨車に連結するため再度姿を現したが今度は手前のフェンスなどに邪魔されて納得のいく写真にはならなかった。

 とりあえず目当ての機関車の写真も撮れたしそろそろ時間は21時となる。
 山に上がるロープウェーはまだ動いているようだが山に上がるほど元気はないので今日はそろそろ終わりにしようかな。
 明日は7時のバスで移動だし、市庁舎前で珍しく遅い時間でも営業しているケバブ屋が有るのでそこで晩飯をとったらホテルに戻る。
 11時過ぎに非常階段の踊り場が喫煙所となっているので外に出るが、白夜ということもあり太陽は北西の空に浮かんでいる。
 今夜はしっかりとカーテンを閉めて寝ないと時間の感覚がおかしくなりそうだ。


Quality Hotel Grand Royal Narvik
 

Narvik駅を通過するIRON TRAIN

到着線で切り離し準備中のDm3+IRON TRAIN

機回し中のDm3